「君は何年うちに勤めるんだ?」いきなりそう聞かれた。
普通は、ずっと勤務する前提で勤め始めるのになんだ?と思った。
聞けばなるほど、
この建築設計の業界では徒弟制度に近い。丁稚奉公とか職人の世界のようなもの。仕事は盗んで覚える。とっとと仕事を覚えて独り立ちしていくものだ。仕事のできんヤツがいつまでも安い給料のままで残る。むしろ給料は要らないから仕事を覚える為に自分を置いてください!って世界だ。
「早く仕事を覚えて、一人で仕事をこなして回していくようになりたいのじゃないのか? じゃあ早く仕事を覚えてうちから独立するくらいの気持ちで取り組むべきだろ? そういう意味で、『何年この事務所に居るつもりだ?』と聞くんだよ」
中途入社だけど初めて勤めた設計事務所の所長はそう言って僕を迎えてくれた。所長1人、スタッフが自分1人の小さな事務所だった。話し好きでいろいろ教えてくれた。初めての「師匠」だった。
その師匠が、11月20日の今日、亡くなったと連絡を貰った。
ちくしょう、まだ越えてないぞ。
合掌。